独立行政法人労働者健康安全機構 九州労災病院

胃がん

はじめに

2015年における日本人の死因では悪性新生物が第1位ですが、その中で男性は肺癌が1位で、胃がんは第2位です。女性では大腸がん、肺がんについで胃がんは第3位です。一方、2013年の罹患率(病気にかかる頻度)のデータでは、男性は胃がんが1位で、女性では乳がん、大腸がんについで3位です(2015年、がん対策情報センターのデータ)。胃がんの死亡率は10万人あたり40~50人で、死亡者は年間5万人ほどです。年齢層では65~69歳が最も多く、男女比では約2:1で男性に多いです。

胃がんは胃の壁の一番内側の粘膜より発生し、進行とともにがん細胞が深い層へ入っていきますが(浸潤)、がんの浸潤している深さをがんの深達度といいます。粘膜下層までにとどまっているものを「表在癌」(早期胃がん)とし、固有筋層より深くまで浸潤しているものを「進行型」(進行胃がん)としています。がんが粘膜内にとどまっている場合は、リンパや血液を介して、遠くまで飛んでいく(転移する)ことは稀ですが、粘膜下層に達すると転移を生じる可能性が増加します。

早期胃がんと進行胃がん

がんの深達度、リンパ節転移の程度、遠くの臓器への転移(腹膜、肝臓・肺・骨など)の有無によって、がんの進行度が分類されます。手術後の生存率とがんの進行度には関連があり、ステージIAが最も良好で、ステージIVが最も不良です。

診断

  1. 上部消化管内視鏡検査:口や鼻から細いファイバースコープを胃まで挿入して胃内を観察するもので、胃がん診断で最も有用な検査です。疑わしい病変は胃の組織の一部を採取して、顕微鏡検査(病理検査)を行い、胃がんであるか否かの診断をつけます。
  2. 上部消化管造影検査(胃透視):硫酸バリウムという白い液体を飲んで、X線透視下に胃の病変を調べる検査です。発泡剤という気体を発生する薬を飲んで二重造影と呼ばれるレントゲン写真を撮ります。
  3. 超音波内視鏡検査:内視鏡に超音波検査装置の付いたもので、胃の病変の深達度や周囲臓器への広がりの有無を調べる検査です。
  4. 超音波検査:肝臓やリンパ節への転移の有無や腹水・胸水の有無について調べる検査で、比較的簡便でレントゲンを使わない検査です。
  5. CTスキャン:肝臓・肺・リンパ節などへの転移の有無や、がんの周囲臓器への広がり、腹水・胸水の有無などを調べる検査です。

内視鏡的治療

表在型でリンパ節転移の可能性がきわめて低く、病変部が一括で切除できる大きさと部位にあるものに対しては、内視鏡的に切除されます。病理検査の結果でがんの遺残があると考えられる場合は、追加の切除もしくは外科的な切除術が必要になります。

内視鏡的粘膜切除術(EMR)
胃の粘膜の病変を引き上げて鋼線ワイヤ(スネア)をかけて焼却切除する方法です。
内視鏡的粘膜切除術(EMR)
内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
電気メスのナイフを用いて、病変の粘膜下層まで剥離して切除する方法です。
内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)

外科的治療(開腹手術)

以前から行われている手術で、お腹のお臍より上部を切開して胃および周囲のリンパ節までを切除する手術です。

幽門側胃切除術
胃がんの発生は胃の中下部3分の2に多いために、最も多く行われる手術です。胃の約3分の2を切除して、残った胃と十二指腸をつなぐことが最も多く行われます。
胃全摘術
胃がんが胃の全体に及ぶ場合、胃の上部で進行している場合などに、胃を全部切除する手術です。胃がなくなった部には小腸を使って食道とつなぎます。
その他
胃の上部の早期癌に対しては、胃の上部3分の1程を切除する噴門側胃切除術や、胃を部分的に切除する胃部分切除術などがあります。
胃切除術の術式① 胃切除術の術式②

外科的治療(腹腔鏡下胃切除術)

手術による患者様への負担を軽くするために導入された手術で、お腹を大きく切らずに、主に臍に1~2cmほどの穴を開けてお腹に炭酸ガスを注入して空間を確保し、お腹の中にカメラを入れてテレビモニターに映して、その映像を見ながら行う手術です。お腹には合計5~6個の小さな穴を開けます。切除した胃を取り出すためにお臍の穴を4cmほどに広げます。

この手術は開腹手術に比べて手術の創が小さいために、美容上のメリットがあるだけでなく、手術後の痛みが少なく、腸が直接空気にさらされにくいために腸の動きの回復がよく食事の再開が早くなり、退院時期や社会復帰が早くなる可能性が高くなります。

腹腔鏡下胃切除術

化学療法

抗がん剤を使った治療法で、経口(口から飲む)薬や、注射や点滴で使う薬があります。手術を行う前に行う術前化学療法や、手術後に行う術後補助化学療法があります。また、手術で切除できないような進行した胃がんや再発した胃がんに対する化学療法もあります。

それぞれいろいろなお薬を組み合わせて副作用に対応しながら治療を行います。 入院で行う場合と通院で行う場合があり、最近では通院で行われることが多くなっています。