独立行政法人労働者健康安全機構 九州労災病院

造血器悪性腫瘍

はじめに

これから血液の悪性の病気(専門的には'造血器(ぞうけつき)悪性腫瘍'と言います。俗に言う'血のがん'のことです)のうち、白血病、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、そして多発性骨髄腫についてご説明いたします。これらの病気を、最近聞いた、もしくは少し聞いたことがある、というかたのためにご説明したいと思いますので、病気のパンフレットやホームページ、そして本などで少し勉強されたことがあるかたは、"国立がん研究センター がん情報サービス"のホームページで、さらに詳しく調べられるほうがいいかもしれません。

またご説明させて頂く前に先にお伝えしておきたいことがあります。それは、「どうしてそんな病気になるのか?」ということです。造血器悪性腫瘍に限らず、いわゆる'がん'と呼ばれる病気は、体の中の細胞で遺伝子異常が突然起き、その異常が増えていった時に'がん'になります。しかし、'遺伝子異常が突然起きて増えていってしまう'原因は現在の医学でも分かっていません。もしがんになってしまった場合、ショックを受けられると同時に「何が悪かったのだろう? どうして?」と思われるかもしれません。そのように思われることは致しかたないと思いますが、がんになる原因は残念ながら分かっておりません。ですから、 '病気とうまく付き合っていこう'というお気持ちに少しでも早くなって頂くことが大事なのではないかと思います。病気とうまく付き合っていくためにも、少し怖いことかもしれませんが、病気のことをぜひたくさん知っておいて頂きたいと思います。

造血器悪性腫瘍の特徴

まず血液の病気の特徴をご説明いたします。'血'の病気というと、「遺伝するのではないか? うつるのではないか?」と心配されるかもしれませんが、上に書きました'遺伝子の異常'と、親から子への'遺伝'とは異なるものですので、遺伝することはありません。また、ウイルスなどの病原体は血や唾液で他のひとにうつることがありますが、血の病気は'ウイルス'ではありませんので、ひとにうつることはありません。

次に血液の病気は、他の'がん'とは少し性質が異なっており、肺や胃など体の一部だけに病気があることは少なく、体全体の病気、つまり'全身の病気'であることが多いという特徴があります。そのため血液の病気の治療では、病気があるところだけを'手術で取り除く'ということよりも、抗がん剤などのお薬を点滴や飲み薬で投与して'全身に効く'ようにするという治療('化学療法'または'薬物療法'と言います)が中心となります。'手術'をしないからといって、「手術ができなかった。手遅れなんじゃないか?」ということではなく、抗がん剤治療('化学療法')が治療の中心になるのです。そして一般に化学療法がよく効く病気でもあります。

白血病

概略

骨の内側にある'血の工場 = 骨髄'で、白血病細胞が増える病気です。急性と慢性、骨髄性とリンパ性という種類に分かれ、頻度が多い順に急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病があります。化学療法で治療し、お若いかたでは'骨髄移植'をすることもあります。

病気の特徴

骨髄の中の細胞が原因不明にがん化して白血病細胞になり、どんどん増える病気です。骨髄の中では、正常な血液('白血球'、'赤血球'、'血小板'のことです)が作られていますので(このことを'造血(ぞうけつ)'と言います)、骨髄中で白血病細胞が増えると、正常な血液の産生が邪魔されてしまい、正常な血液が減ってしまいます(このことを'汎血球減少(はんけっきゅうげんしょう)'と言います)。白血球は免疫に関係している細胞ですが、これが減少すると('白血球減少'と言います)抵抗力が落ちて細菌などの病原体に弱くなってしまいます。そして時に命にかかわるような重症な感染症を合併してしまうことがあります。赤血球が減ることを'貧血'と言いますが、赤血球は酸素を体中に運ぶ働きをしていますので、貧血になると酸素欠乏の症状などが出てきます。なお、血液検査の結果をお伝えする時には、赤血球の数の代わりに'ヘモグロビン'(赤血球の濃度のことです)の数値をお伝えすることが多いと思います。そして最後に血小板は、けがをした時に血を止める働きをしています。そのため血小板が減ると('血小板減少'と言います)、けがをした時に出血が止まらなかったりしますし、また高度の血小板減少では、けがもしていないのに口の中などに出血することがあり、命にかかわるような脳出血が起きることもあります。

白血病が進行すると、高度の白血球減少による重篤な感染症や、高度の血小板減少による致死的な出血が起きる危険性があります。そのため、白血病細胞を減らすように、抗がん剤などの治療を行いますし、また高度の貧血や血小板減少に対し輸血を行ったりします。

検査

白血病細胞は骨髄の中で発生しますので、'骨髄検査'が必要です。おしりの骨(腸骨)に局所麻酔をして骨の中に針を刺し、そこにある骨髄を注射器で吸い取ります。そして顕微鏡で白血病細胞を観察したり、遺伝子検査を行ったりします。検査自体は5-10分で終了し外来でもできる検査です。この検査で白血病の種類を決定し、その種類によって有効な抗がん剤を選択します。

治療法と治療成績

急性骨髄性白血病と急性リンパ性白血病に対しては、強力な化学療法で白血病細胞を減らすことを目指します。化学療法は1回ではなく4-6回行うことが多く、短期間の退院をはさんで入院を繰り返しながら受けることが多いと思います。そして白血病の種類や悪性度によっては、'骨髄移植'(正式には'造血幹細胞移植(ぞうけつかんさいぼう・いしょく)'と言います)が勧められることもあります。ただこれらの強力な化学療法や造血幹細胞移植は、体への負担(つまり'副作用'のことです)がとても大きい治療ですので、ご高齢のかたや心臓病などの合併症をお持ちのかたには、体力に合わせた治療が勧められるかと思います。なお治療によって骨髄検査で白血病細胞が見えなくなった状態を'完全寛解(かんぜんかんかい)'と言います。

数十年前とは異なり、十分な治療を受けることができれば急性骨髄性白血病のおおよそ4割のかたでは長期間病気を抑えることができます。また急性骨髄性白血病の中には約8割の可能性で病気をほとんど治すことができる種類もあります('急性'前'骨髄球性白血病'という種類です)。一方、急性リンパ性白血病では病気を長期間抑えることはなかなか難しく、様々な治療法が開発されています。

慢性骨髄性白血病の治療法は、約10年前に大きく進歩しました。分子標的療法剤という副作用の少ない飲み薬を内服することにより、9割以上のかたで病気をほぼ完全に抑えることができるようになりました。慢性リンパ性白血病は日本では少ない種類の、ゆっくりと進行する白血病です。抗がん剤の点滴や飲み薬による治療を休憩をはさんで受けながら、病気と長期間付き合っていくことになります。

現在、白血病に対する新薬の開発がどんどん進んでおりますので、治療成績は今後さらに良くなることが期待されます。

骨髄異形成症候群(こつずい・いけいせい・しょうこうぐん)

この病気については概略だけをご説明いたします。

白血病と同じく骨髄の中の細胞で原因不明に遺伝子異常が起きて、細胞の'形'が'異常'になる病気です。とてもゆっくりと進行し10‐20年以上、ほとんど進行しないかたもおられれば、診断されて数年たってから進行するかたや、診断されてすぐに急性骨髄性白血病と同じような治療が勧められるかたなど、病気の性質がいろいろあるため'症候群'という言い方をします。

遺伝子異常で形が異常になった細胞は、出来損ないの細胞として壊されてしまうため、白血球数やヘモグロビン値そして血小板数は少なくなることが多く、汎血球減少が特徴です。そのため、抵抗力が落ちて感染症にかかりやすくなったり(このような状態を'易感染状態(い・かんせんじょうたい)'と言います)、輸血が必要になったりします。また高齢者に多いという特徴もあります。

病気の進行度に合わせていろいろな治療法があり、病気をうまく抑えながら病気と付き合っていく、という治療が主になります。なお病気の勢いが強い場合、十分な体力があられるかたには造血幹細胞移植をお勧めすることがあります。

悪性リンパ腫

概略

'リンパ球'という血液細胞で原因不明に遺伝子異常が起きてリンパ腫細胞になり、体のいろいろなところに'腫瘍(いわゆる'できもの'のことです。)'を作る病気です。半分以上のかたでは、'リンパ節(首やわき、足の付け根(そけい))に腫れることがある'ぐりぐり'のことです)'が腫れます。

病気の特徴

リンパ球とは白血球の種類の一つです。そしてリンパ球は、リンパ節の中だけでなく血の中や骨髄の中、胃の粘膜の中など体中に存在しています。このリンパ球で遺伝子異常が起きるとリンパ腫細胞になります。リンパ腫細胞には遺伝子異常の違いや見た目の違いによってたくさんの種類があります('病理分類'と言い、50種類以上あります。)。種類('病理分類')がとても多いのですが、種類を表現するいくつかの言葉だけをご説明します。悪性リンパ腫はまず大きく、'ホジキンリンパ腫'と'非ホジキンリンパ腫'('ホジキンリンパ腫'以外、という意味です。)に分かれます。そして'非'ホジキンリンパ腫は'B細胞性'非ホジキンリンパ腫'と'T細胞性'非ホジキンリンパ腫に分かれます。また、病気の悪性度や進行する速度によって、 '低'悪性度リンパ腫、'中'悪性度リンパ腫、'高'悪性度リンパ腫という3つのグループに大きく分けることもあります。さらにリンパ腫細胞が体のどのくらいの範囲にひろがっているのかということを、病期Ⅰ~Ⅳ(4)で表します。'病期'とはいわゆる'ステージ'のことです。

'病理分類の種類'、'悪性度の種類'、そして'病期'を総合的に評価して、最適な治療薬や治療方針が決まります。

検査

リンパ腫ではリンパ節が病的に腫れることが多いのですが、腫れたリンパ節('腫脹リンパ節'という言い方をします)を摘出して顕微鏡で観察したり遺伝子検査を行ったりすることで、悪性リンパ腫の診断をします(リンパ節'生検(せいけん)'と言います)。同時にCT検査やPET(ペット)検査、そして骨髄検査、場合によっては胃や大腸の検査など、ほぼ全身の検査を受けて頂くことによって、病期(ステージ)を調べます。

治療と治療成績

悪性リンパ腫による病変がどんどん大きくなったり、全身にひろがり過ぎてしまったりすると、圧迫症状や痛みが出ることがありますし、命にかかわってくることもあります。そうなる前に治療を開始するのですが、治療は主に化学療法で、リンパ腫の種類や病期によって最適な薬剤を選びます。また放射線照射を行うこともあります。

代表的な化学療法は3週に1回の頻度で受けて頂き、外来通院で受けて頂くことが多くなっています。合計6回(6'コース'や6'サイクル'と言います)受けることが多く、約5か月間で一通りの治療が終わることになります。そして病気が小さくなり見えなくなった状態のことを、'完全寛解(かんぜんかんかい)'と言います。

ただ非ホジキンリンパ腫全体の約半分のかたで、残念ながら病気がまた出てくることがあります(いわゆる'再発'です)。しかし再度の治療でまた病気が小さくなることも多く、リンパ腫という病気と'うまく付き合っていく'、というお気持ちで治療や通院を続けていくことが大事だと思います。一方、ホジキンリンパ腫のかたでは、一度寛解になると7割前後のかたでは再発することはありません。

なお、治療がどのくらい効くかということを予測するデータ(国際予後指標)があります。しかしこれは、あくまでも'予想データ'ですし、実際には治療途中の経過などで、病気とどのように付き合っていくことになるかが分かってくるかと思います。

多発性骨髄腫

概略

骨髄の中で骨髄腫細胞が増えることによって、骨が弱くなったり正常な血が減って抵抗力が落ちたり貧血になったりします。さらに、骨髄腫細胞が分泌する 'Mたん白'と呼ばれる異常なたん白質が原因で、腎臓が悪くなったりします。

病気の特徴

白血球の中に'形質(けいしつ)細胞'という種類の血がありますが、この細胞は'抗体'を分泌します。'抗体'は菌などを殺してくれるたん白質です。'形質細胞'は主に骨髄の中にいるのですが、この細胞の中で原因不明に遺伝子異常が起きてどんどん増えるようになった病気が'多発性骨髄腫'です。形質細胞ががん化した病気なので'形質細胞性腫瘍'と言うこともあります。がん化してどんどん増えた形質細胞は骨髄の中でたくさんの塊(かたまり。いわゆる'腫瘍'です)を作ってしまうので、'多発'する '骨髄'の中の'腫瘍'、つまり'多発性骨髄腫'と呼ばれています。そしてがん化した形質細胞のことを一般に'骨髄腫細胞'と呼びます。

がん化した形質細胞(つまり骨髄腫細胞)も抗体を分泌するのですが、この抗体は残念ながら'異常な'抗体です。この異常な抗体を専門的に'Mたん白'と呼びます。'Mたん白'という異常な抗体は働きも異常なため、菌を殺すことができず抵抗力が落ちてしまいますし、腎臓につまって腎臓が悪くなったりもします。また、骨髄の中で骨髄腫細胞が増えると正常な血が少なくなり、特に貧血になってしまいます。さらに骨髄腫細胞は骨を溶かしたりします。するとカルシウムが増えすぎたり、骨が折れたりします('病的'骨折と言います)。

骨髄腫細胞が増える速度はとてもゆっくりです。増加した骨髄腫細胞を抗がん剤で抑えたりしながら、多発性骨髄腫という病気と2年、5年、7年とうまく付き合っていくことになります。

検査

'Mたん白'は血液検査や尿検査で調べます。骨髄の中の骨髄腫細胞を調べるためには骨髄検査が大事な検査です。また骨の弱くなったところを調べるためにMRI検査をしたり骨のレントゲン検査(X線検査)をしたりします。

治療と治療成績

新しい薬剤が次々と利用できるようになってきているため、骨髄腫の治療は近年急速に変化しています。そして半分以上の方が5年以上もの長い間、病気とうまく付き合っていくことができるようになっています。さらに骨髄腫の治療薬は、一般的な'抗がん剤'ではなく 'できるだけ骨髄腫細胞だけに効くように作られた'お薬であることがほとんどです。そのため一般的な'抗がん剤'よりも副作用が少なく、ご高齢のかたでも十分な治療を受けて頂くことが可能です。一方で、65歳くらいまでのお元気な方は、一般的な'抗がん剤'を大量に点滴して骨髄腫細胞を一気に減らしてしまうという'大量化学療法('自家末梢血幹細胞移植(じか・まっしょうけつ・かんさいぼういしょく)'と言います)'も治療法の一つとして選択することがあります。

なお、病気とどのくらいの間付き合っていくことができるかということを予測するデータ(国際病期分類)があります。しかしこれはあくまでも'予想データ'ですし、実際には治療途中の経過などで、病気とどのように付き合っていくことになるかが分かってくるかと思います。